絵本「ちいさいおうち」

2025年4月30日 0 投稿者: ガーベラ

「ちいさいおうち」

岩波の子どもの絵本

バージニア・リー・バートン 文・絵
石井桃子          訳

 

ちいさいおうち | 絵本寄付書店 ekBooks

 

「むかしむかし、いなかのしずかなところに ちいさいおうちがありました。」というはじまりのこの絵本は、アメリカ合衆国の代表的な絵本作家 バージニア・リー・バートンの名作絵本で、日本語翻訳は、石井桃子さん、1954年に岩波の子どもの絵本として発行されています。

きれいな水色の表紙に、シンメトリーに描かれた「ちいさいおうち」と、周りを取り巻くひなぎくの花が描かれていて、印象的です。明るいきれいな色彩で描かれた物語の始めは四季折々の植物や生き物たちや自然の恵みと共に生きている ちいさいおうちの人々の姿が描かれています。

太陽や月、星、周りの自然をながめ、春、夏、秋、冬 それぞれの季節と共に、生活する家族をじっと見つめながら ちいさいおうちは幸せを感じていました。
朝には、お日さまがのぼり、ゆうがたにはしずむ。よるになると、ちいさいおうちは お月さまをながめ、三日月から満月になるのを楽しみます。星もながめます。
そして、時々、ずっと向こうの 遠いところの まち を見て思うのです。「まちって、どんなところだろう。まちに すんだら、どんなきもちがするものだろう」と。

絵本の中では、太陽が昇り日が沈むことで一日を、月の満ち欠けで一か月を、四季の移り変わりで一年が過ぎていくのが表現されています。
四季の景色とちいさいおうちは右ページに描かれ、小鳥やひなぎくの花、落ち葉や雪の結晶等が、左ページに描かれ、美しくのどかな風景が広がっていますが、物語の進行と共に失われていきます。
ちいさなおうちの住んでいる場所は、開発が進み、かつて ちいさいおうちが遠くの灯りを見て「まちって、どんなところだろう…」と、つぶやいていた 町 になっていってしまうのです。
環境が変わっていき、ちいさいおうちは、忙しく動く町をあまり好きになれないまま、何年も何年も過ぎていき、ちいさいおうちはみすぼらしくなってしまいますが、丈夫に建てられていたので、骨組みはしっかりとしていました。
そして、丈夫に建てられ、また、どんなにお金を出しても、誰も買うことはできなかった このちいさいおうちは、都会の中で
どうなっていくのでしょう?

このお話は、1942年に描かれ、アメリカの児童図書館協会が、アメリカ合衆国で、前年に出版された最も優れた子ども向け絵本に毎年授与しているコールデコット賞を受賞しています。(情報はWikipediaより)
制作背景には作者自身の生活や経験も加味されているそうで、ちいさいおうち が  ずっとそこにいる間に、周りの景色が変わっていく様子や、住む人がいなくなり、時の流れと共にだんだんみすぼらしくなっていき、悲しそうな佇まいになっていく様が、細かく丁寧な描写で描かれています。
この絵本を読んだ子ども達が、長い時の流れを感じ、進化していく暮らしや変化していく日常を感じ、その中で何が変わらずに残っているのかに気づき、自身の価値観をうっすらと芽生えさせるきっかけにもなり得る一冊です。

過ぎ去った過去は歴史となり、良いことも悪いことも、今の自分を支えてくれるものになります。この物語も、進化していく文明が悪いものといった考え方ではなく、その中にいて自分が居心地が良いか悪いか…そして、過去の自分のいた場所を懐かしく思う気持ちも大切なものになっていくように思います。
小さな子どもが この絵本を読んでそんなことを考えるわけもないと思いますが、時の流れを大きなものとして漠然と感じ、何かを心の中に残してくれるのではないでしょうか。

このブログを書くにあたり、この絵本について調べていたら2019年11月に、バートン生誕110年を記念して、より原作に近い色彩で美しく生まれ変わった改版が発売されたそうです。
表紙の〝HER-STORY″の文字や献辞の〝To Dorgie″の文字がよみがえり、巻末にはバートンの息子さんによるあとがきが収録され、より深くこの作品を味わうことができるようになったようです。

時の流れとともに変わっていく おうち と、風景を詩情豊かな美しい文章と、絵  で描いた名作絵本です。

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