絵本「わすれられない おくりもの」

「わすれられない おくりもの」

評論社の児童図書館・絵本の部屋
スーザン・バーレイ さく え
小川仁央      やく

わすれられないおくりもの/スーザン・バーレイ/さく え 小川仁央/やく 本・コミック : オンライン書店e-hon

前々回、死を題材にした絵本「いつでも あえる」という絵本について書きましたが、もう一冊 年をとり、死ぬのが そう遠くはないことを自身で悟っている アナグマと、その友達たちのお話「わすれられない おくりもの」という名作絵本について ブログを書こうと思います。

アナグマは賢くて、いつもみんなに頼りにされていました。困っている友達は誰でも助けてあげるし、また、知らないことはないというくらい、もの知りでした。
アナグマは自分の年だと、死ぬのが そう遠くはないことも知っていました。

アナグマ自身は、死ぬのを恐れてはいませんでした。からだはなくなっても、心は残ることを、知っていたからです。
だから、年を取り身体がいうことをきかなくなってきても くよくよしていませんでした。気がかりだったのは、自分のことではなく、後に残していく友だちのことを、あまり悲しまないでほしいと、心配していたのです。

 

でも、時の流れはとめられず、アナグマは本格的な冬の前に死んでしまいます。
「長いトンネルの むこうに行くよ さようなら アナグマより」
という手紙を残して…

悲しみに暮れる森の動物たち、長い冬の間、動物たちは泣き暮らします。失った喪失感は そう簡単に埋められるものではないでしょう。
寂しさや悲しい気持ち… でも 絵本「いつでも あえる」と同じく、残されたものの毎日は続いていくのです。
動物たちは 雪が消えはじめ、春の足音がきこえ始めたころ、外に出始め、互いにアナグマの思い出を語り合うようになると、気付き始めます。
アナグマが、たくさんの楽しい思い出とともに、ひとりひとりに
「別れたあとでも、たからものとなるような、ちえとくふうを 残していってくれたこと」に。そうして、少しずつ思い出を笑顔で語り合えるようになっていったのです。

物語の素晴らしさはもちろんですが、水彩とペンで描かれる優しい色彩の絵が素晴らしいです。
雪が解け始めたころに、雪の下から芽を出し可憐に咲くスノードロップの花が、みんなの悲しみにそっと寄り添い、溶かしていってくれていそうで、また、癒してくれているような感じで、印象に残ります。
また、アナグマが主人公だったり、スノードロップが描かれていたりと、イギリスの作者らしいところも感じます。

かけがえのない人を失って、悲しみの中にいる誰かの傍らに、何も言わず、そっと置いてあげたい絵本です。

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絵本「おべんとうバス」

「おべんとうバス」

ひさかたチャイルド
真珠 まりこ 作・絵

おべんとうバス | 真珠 まりこ,真珠 まりこ | 絵本ナビ:レビュー・通販

2006年に発行された 比較的新しいこの絵本には、保育士時代 本当に本当にお世話になりました。といっても、若い頃ではなく もう後半戦ですけど💦

まだ誰も乗っていない真っ赤なかわいい バス。
「バスにのってくださーい」 そして、次々にお名前が呼ばれます。  呼ばれるのは、お弁当のおかずでおなじみの ハンバーグやエビフライ、たまごやき達 (≧▽≦) 
緑のお野菜や、デザートの果物もみんな一緒にバスに乗り込んで さあ、出発です!

原色で描かれた鮮やかなキャラクター達が、本当に可愛らしく、また、リズミカルに繰り返される会話の文面が、小さな子ども達にピッタリです。
「ハンバーグさーん」
「はーい」
という声に合わせて、小さなおててを上げてくれる 微笑ましい光景が浮かびます。

保育士小道具の一つとして、ペープサートというものがあるのですが、私はこの絵本を題材にペープサートを作り、親子遠足のバスの中などで、毎年見せていました。
絵も色合いも作りやすい題材なもので、大いにお世話になったものです。
コロナ渦以降、遠足や園外保育など、下火になり、子ども達も戸外でお弁当を食べたり、バスに乗って、お友達と出かける事も少なくなり、少し残念な気もしますね。

「おべんとうバス」は、歌も作られていて、お話を歌にして読んでいくこともできます。とっても楽しい歌なので、YouTubeなどで検索してみると、また更に楽しむことができそうです。

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絵本「ちいさいおうち」

「ちいさいおうち」

岩波の子どもの絵本

バージニア・リー・バートン 文・絵
石井桃子          訳

 

ちいさいおうち | 絵本寄付書店 ekBooks

 

「むかしむかし、いなかのしずかなところに ちいさいおうちがありました。」というはじまりのこの絵本は、アメリカ合衆国の代表的な絵本作家 バージニア・リー・バートンの名作絵本で、日本語翻訳は、石井桃子さん、1954年に岩波の子どもの絵本として発行されています。

きれいな水色の表紙に、シンメトリーに描かれた「ちいさいおうち」と、周りを取り巻くひなぎくの花が描かれていて、印象的です。明るいきれいな色彩で描かれた物語の始めは四季折々の植物や生き物たちや自然の恵みと共に生きている ちいさいおうちの人々の姿が描かれています。

太陽や月、星、周りの自然をながめ、春、夏、秋、冬 それぞれの季節と共に、生活する家族をじっと見つめながら ちいさいおうちは幸せを感じていました。
朝には、お日さまがのぼり、ゆうがたにはしずむ。よるになると、ちいさいおうちは お月さまをながめ、三日月から満月になるのを楽しみます。星もながめます。
そして、時々、ずっと向こうの 遠いところの まち を見て思うのです。「まちって、どんなところだろう。まちに すんだら、どんなきもちがするものだろう」と。

絵本の中では、太陽が昇り日が沈むことで一日を、月の満ち欠けで一か月を、四季の移り変わりで一年が過ぎていくのが表現されています。
四季の景色とちいさいおうちは右ページに描かれ、小鳥やひなぎくの花、落ち葉や雪の結晶等が、左ページに描かれ、美しくのどかな風景が広がっていますが、物語の進行と共に失われていきます。
ちいさなおうちの住んでいる場所は、開発が進み、かつて ちいさいおうちが遠くの灯りを見て「まちって、どんなところだろう…」と、つぶやいていた 町 になっていってしまうのです。
環境が変わっていき、ちいさいおうちは、忙しく動く町をあまり好きになれないまま、何年も何年も過ぎていき、ちいさいおうちはみすぼらしくなってしまいますが、丈夫に建てられていたので、骨組みはしっかりとしていました。
そして、丈夫に建てられ、また、どんなにお金を出しても、誰も買うことはできなかった このちいさいおうちは、都会の中で
どうなっていくのでしょう?

このお話は、1942年に描かれ、アメリカの児童図書館協会が、アメリカ合衆国で、前年に出版された最も優れた子ども向け絵本に毎年授与しているコールデコット賞を受賞しています。(情報はWikipediaより)
制作背景には作者自身の生活や経験も加味されているそうで、ちいさいおうち が  ずっとそこにいる間に、周りの景色が変わっていく様子や、住む人がいなくなり、時の流れと共にだんだんみすぼらしくなっていき、悲しそうな佇まいになっていく様が、細かく丁寧な描写で描かれています。
この絵本を読んだ子ども達が、長い時の流れを感じ、進化していく暮らしや変化していく日常を感じ、その中で何が変わらずに残っているのかに気づき、自身の価値観をうっすらと芽生えさせるきっかけにもなり得る一冊です。

過ぎ去った過去は歴史となり、良いことも悪いことも、今の自分を支えてくれるものになります。この物語も、進化していく文明が悪いものといった考え方ではなく、その中にいて自分が居心地が良いか悪いか…そして、過去の自分のいた場所を懐かしく思う気持ちも大切なものになっていくように思います。
小さな子どもが この絵本を読んでそんなことを考えるわけもないと思いますが、時の流れを大きなものとして漠然と感じ、何かを心の中に残してくれるのではないでしょうか。

このブログを書くにあたり、この絵本について調べていたら2019年11月に、バートン生誕110年を記念して、より原作に近い色彩で美しく生まれ変わった改版が発売されたそうです。
表紙の〝HER-STORY″の文字や献辞の〝To Dorgie″の文字がよみがえり、巻末にはバートンの息子さんによるあとがきが収録され、より深くこの作品を味わうことができるようになったようです。

時の流れとともに変わっていく おうち と、風景を詩情豊かな美しい文章と、絵  で描いた名作絵本です。

 

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絵本「バムとケロのさむいあさ」

「バムとケロのさむいあさ」

文渓堂
島田 ゆか

絵本『バムとケロのさむいあさ』の内容紹介(あらすじ) - 島田ゆか | 絵本屋ピクトブック

「バムとケロのにちようび」「バムとケロのそらのたび」に続く、バムケロシリーズの三作目が「バムとケロのさむいあさ」です。
しっかり者で優しくおおらかなバムと、子どもらしく毎日を全力で楽しんでいる 散らかしやのケロちゃん そんな二人の日常の一コマを描いている絵本です。

ある冬の寒い日、バムとケロは家の裏にある池が凍っているはずと、スケート遊びやつりの準備をして出かけていくと、あひるのかいちゃんが池の水と一緒に凍り付いてしまっていました。たいへんたいへんと、二人はかいちゃんを助け、家に連れて帰り、お風呂に入れて暖めてあげてから、遊んだり、一緒におやつを食べたりして過ごすのですが、テンションの上がったケロちゃんが…とまあ、大変な事になってしまいます。そして、ラストにはもっと衝撃的な事件が待ち受けています(笑)


あひるのかいちゃんが、池で凍り付いてしまうまで、何をしていたかも気になりますよね、それも表表紙と裏表紙の見返しページを見ると「あ、そうだったんだ~」と、納得。
そんな細やかな絵による表現もとっても楽しいです。



私は、バムケロシリーズの中でも、この絵本が一番印象に残っているので、1作目
を抜かしてこの絵本を取り上げてみました。
印象に残っているのは、私が保育士時代にこの絵本をとても好きだったお子さんがいて、ケロちゃんがしでかしたトイレットペーパーミイラごっこを再現して遊んだ思い出があるからです。やってみたいというその子の思いを、よく当時の園長先生も許してくれたなぁと、思います。みんなで、園の机の脚や椅子、人形など巻き巻きして遊んで楽しかったことでしょう。遊んだペーパーは使えるものは再度汚れ拭きに使い、汚れたものは紙粘土遊びをして、消費しました💦 楽しい思い出です。



幸せを感じる平和な日常を綴ったストーリーも魅力的ですが、絵本の中に丁寧に描き込まれた風景や家のインテリアや雑貨等の小物類が北欧の景色や家具のように鮮やかな色使いで印象的。一度見たら忘れられない絵だと思います。
さらに絵の隅々までよーく見ていると、小さな子たちがいて、ページをめくるたびに、この子達を探すのも楽しめます。この子達にもちゃんと名前があったような気がしますが、私は忘れてしまいました。
出てくる食べ物も、とても美味しそうで、この小さな子たちにも、小さな家具や食器でちゃんと提供されていて、探すのも楽しくなり、大人でも夢中なってしまいそうだし、他にも、表紙の絵と裏表紙にもつながりがあって、最後の最後まで楽しさが続きます。
シリーズを通して読んでいくと、さらに発見が増えていくような気がします。


細部まで丁寧に描かれた絵と、全編にあふれる優しさと思いやりに心が温まる素敵な絵本です。

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ひろすけ童話「むく鳥のゆめ」

ひろすけ童話「むく鳥のゆめ」

集英社版
浜田廣介 作
深沢邦朗 画

s 昭和書籍 初版 ひろすけ童話 むく鳥のゆめ 浜田廣介 画 深沢邦朗 オールカラー 集英社 昭和42年 昭和レトロ /F45(絵本一般 ...

昔、夜眠る前に母によく読んでもらった絵本。とても古い絵本ですが、大切にしています。
浜田廣介という、とても有名な童話作家の作品なので、何作か同じお話の絵本が出版されていますが、実家にあったのはこの絵本でした。
以前にブログに記した「ないた あかおに」もこの方の作品です。

お話は…
広い野原の真ん中に立つ古いくりの木。その木のほらの中に、むく鳥の子どもと、とうさん鳥が住んでいました。
秋になり、すすきの ほ が白くなると、とうさん鳥は、その ほ をくわえて 
すのなかに持ってきて温まり、やがて寒い冬を迎えても、そのすすきのほ のおかげで困らずに暮らせていました。

寒く天気の悪い日が続いたある日、むく鳥の子はふと、母さん鳥に気がつきます。遠いところへ出かけたと思っていたけれど、なかなか帰ってこないのを気にして、とうさん鳥に尋ねます。
とうさん鳥は、かあさん鳥がもう この世にいないとは言えず、
「いまごろは、うみの上をとんでいるの。」
「もう、いまごろは、やまをこえたの。」
と、聞くむく鳥の子に、「ああ、そうだよ。」と、答えるだけでした。
なかなか帰ってこないかあさん鳥が恋しいむく鳥の子は、木に残った たった一枚の葉っぱが、かさこそ、かさこそ…というだけでも「おかあさんかな」と、思ってしまっていました。
でも、寒くなり、風が今にも茶色くなった枯れ葉をもぎ取ってしまいそうです。
それを見た むく鳥の子は…

とても寂しく、切ないお話。でも私は、このお話を母親に何度か読んでほしいといったのでしょう、読んでもらった事をよく覚えています。
子どもにとってお母さんという存在が、どれほど大切なものか、どれほど恋しいものかが、切々と伝わってくるこの絵本を、読んでもらった声や腕枕してもらったぬくもりを思い出すのです。
前回、ブログに記した「ねないこだれだ」と同様に、むく鳥の子がお母さんを恋しがり、葉っぱのゆれる音にお母さんを感じて眠る姿に、心がきゅっとなったり、そばにいるお母さんを感じて安心したり という相反する感情が、子どもの感受性を豊かに成長させてくれるのかな、だから、印象的で、よく覚えているのかなと、思いました。

またこの絵本は、深沢邦朗という童画家が描いておられる 挿絵もとても素晴らしく、秋から冬に移り行く季節や、雪がしんしんと降ってくる様子、木の色やすすきの穂のあたたかそうな風合い、色合いの少ない季節に反してきれいな羽のむく鳥の子の姿など、印象的な素晴らしい挿絵です。

寒くなって来たこの季節に、読んであげたい名作童話です。

 

絵本「コーギビルのゆうかい事件」

「コーギビルのゆうかい事件」

メディアファクトリー

ターシャ・チューダー/絵・文
食野雅子/訳

コーギビルのゆうかい事件/ターシャ・テューダー/絵・文 食野雅子/訳 本・コミック : オンライン書店e-hon

この第2作「コーギビルのゆうかい事件」は、前回、書き記した第1作「コーギビルの村まつり」から26年後の1997年、ターシャ82歳の時の作品です。

「コーギビルの村まつり」ではまだ子犬だったコーギー犬のケイレブは、ヤギレースで得た賞金を大学へ行く為の資金にするために貯金していましたが、この第2作では、大学を優秀な成績で卒業し、コーギビル村の有名な探偵事務所で働いている設定になっています。

さて、内容は…
探偵事務所で働いているケイレブは、最近 村で見かけるアライグマが増えている事が気になっていました。悪がしこいアライグマのこと、何か企んでいるにちがいないと、調べ始めていたところ、色々と怪しい動きに気づきます。
そんな時不安が的中し、マート達が大切に お世話をしている世界一のおんどり、ベーブが誘拐されてしまいます。
捜索に許される時間は、4時間しかありません。ベーブの命を助ける為に、ケイレブは、一人では救出に向かいますが…。という展開です。

ケイレブが、アライグマの動きが怪しいと、調べていく過程での村の 住民たちとの細かいやりとりや、何を企んでいるのか気付く場面のスリリングな展開は、絵本なのに、立派に探偵物のストーリーさながらで、読んでいる私たちも「ベーブがあぶない!」と、ハラハラします。
また、ケイレブがベーブを見つけ出し、助け出す場面も、勇気とスピード感にあふれていて、この作品を作り上げたターシャの年齢を考えると、尊敬しかありません。きっと、どんなに歳を重ねようとも、子ども心を忘れない、少しわがままな、チャーミングな女性だったのではないかと勝手に想像しています(笑)

様々な紹介文で、ストーリーは素晴らしいが、さすがに82歳という年齢のせいか
「コーギビルの村まつり」と比べて絵の緻密さに衰えが…という評価を見かけますが、確かにそうです。
線画もラフで、二重に見えるところもありますし、色合いも精彩を欠いているのかもしれません。
それでも、前作より というだけで、全体の街並みやページごとの構成のセンスの良さ、小物類を丁寧に描き込まれているところなど、見事です。
何より、ストーリーがよく考えられていて、様々な伏線を回収しながら、エンディングへ向かっていくスピード感は、「コーギビルの村まつり」同様、感動ものです。
その後、コーギビル村へ帰り、村のみんなに歓迎、慰労してもらったケイレブと鶏のベーブが、1番最後のページで 握手しているのが微笑ましく、最後の最後のページまで手を抜かず作り上げる、ターシャ・チューダーの絵本作りの情熱に感じ入ります。

ターシャ・チューダーという方の生き方にも、興味を惹かれる この名作絵本を、是非手に取って、読んで頂ければと思います。

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絵本「コーギビルの村まつり」

「コーギビルの村まつり」

メディアファクトリー

ターシャ・チューダー/絵・文
食野雅子/訳

コーギビルの村まつり | 子育て絵本アドバイス

アメリカの小さな町や村の最大のイベントは、おまつり。この絵本の舞台であるコーギビル村もそうでした。
この物語は、クリスマスの次に楽しい 村まつりのお話で、主人公はコーギー犬のケイレブです。他にも、犬、猫、ウサギ、ニワトリ、カラスが登場します。そして、忘れてはいけないのが、ボガートという妖精です。
妖精というと、可愛らしい姿を想像しますが、この絵本に出てくる妖精は、どちらかというとトロルのようです。でも、このボガートが、結構キーパーソンで、この絵本を面白くしてくれています。

コーギビルの村まつりの最大のイベントは、ヤギのグランドレース。ケイレブは、このレースに向けて、ヤギのジョセフィーンを何カ月もかけて調教したり、体重管理をしたりしてきました。また、ヤギの事に詳しい、ボガートのマートのところへ足しげく通い、色々アドバイスも受けていました。
でも、優勝を狙う、ずる賢い猫のエドガー・トムキャットが、汚い手を使って、ケイレブの邪魔をしようとしていて…という展開。

お話は、場面場面ごとに細やかな描写で描かれているし、主要人物、例えばケイレブの家族一人一人の性格や暮らしぶりや、お祭りに向けてどんな風にこの一年を過ごしてきたか等もほのぼのと、丁寧に描かれているので、お話はその分長くなるのですが、だからこそ、絵本の世界に入り込み、感情移入できるような気がします。

また、宿敵トムキャットについても、あまり村で評判が良くない理由も早い段階で触れています。
様々な人物の感情が絡み合い、おまつりに向けてお話が進んでいき、そして、9月になり、収穫の時期になってくる頃には、準備も最終段階に入る様子が念入りに描かれます。そして、お祭り当日の一日の流れや、ヤギレースへの不穏な流れも分刻みで描かれ、スピード感が増し、ワクワク ハラハラ ドキドキの展開に、読者は、お話の世界に引きずり込まれていきます。
一年間、おまつりを楽しみに日々の生活を頑張る村の人々や、育てた農作物や生き物への愛情など、これこそが本当に子育てに大切なものなのではないかと、思い出させてくれるお話を、久しぶりに手に取ってみて、忙しすぎる今の世の中、こんな風に暮らしてみたいな、いや、でもやっぱり大変だよなぁなーんて、ちょっと考えてしまいました。



とても、読みごたえのある一冊ですが、なんといっても、絵が素晴しく、何と表現したら伝わるのかわかりません。
お店屋さんひとつとっても、隅々まで丁寧に描かれていて、家具、雑貨や食べ物に至るまで全てこだわりをもって描かれています。

主人公のケイレブは作者である ターシャの愛犬、また、出てくる動物たちは、すべて、ターシャが飼っている動物たちがモデルだと思われるので、絵の中の生き物たちへの作者の愛情が伝わってきます。
動物好き、特にコーギー犬好きには、たまらない絵本だと思います。

作者のターシャ・チューダーは、アメリカの絵本画家、挿絵画家、人形作家、園芸家です。
ターシャが1971年 57歳の頃に、ニューイングランド地方 バーモント州南部の小さな町で、30万坪の広大な土地に「コーギーコテージ」と言われる家を建て、庭を作り、スローライフな生活を営み始めます。
一日の大半を草花の手入れに費やし、着るものやエプロンを手作りし、山羊の乳を絞り、庭でとれた果実でジャムを作り、パイを焼いたりして暮らしていたそうです。

「コーギビルの村まつり」は、いつ描かれていたのか詳しい事はわかりませんが、ちょうどターシャが生活を変化させた頃に、刊行されています。
日本での出版は、それよりも20年程後のことになりますので、私はその頃購入して、子ども達に読んであげていました。
子ども達、特に長男は このお話が大好きで、何度も何度も読み聞かせをしましたが、長いので、私の方が先に寝落ちしてしまう事も度々あったと記憶しています。

ターシャ・チューダーについては、沢山の書籍や、また、テレビなどで紹介されています。その暮らしぶりや、どうして、その様な生活を営むに至ったか等、文章では伝えきれないので、是非、物語の中のような暮らしぶりを、書籍や映像で のぞいて見て頂ければと、思います。

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絵本「スイミー ちいさな かしこい さかなの はなし」

「スイミー」
 ちいさな かしこい さかなの はなし

好学社

レオ=レオニ
訳 谷川俊太郎

レオ=レオ二 | 祈りの丘絵本美術館 | こどもの本の童話館グループ

私が、はじめてレオ=レオニという絵本作家を知ったのは「あおくんと きいろちゃん」という絵本。
とても綺麗な色彩で描かれていて、混ざり合うと黄緑色になる透き通った色合いが印象的な絵本でした。
  「あおくんときいろちゃん」も、シンプルな中にとても深いメッセージが込められている素晴らしい絵本ですが、今は暑い季節なので、海のお話を紹介したいと思います。

お話は…広い広い海の中、小さな魚のきょうだいたちがくらしてた。みんな赤いのに一匹だけ真っ黒な魚がいた。それがスイミー。みんなと違ってたけど、泳ぐのは誰よりも早かった。
そんなある日、おそろしいマグロがやって来て、きょうだいたちがあっという間に飲み込まれ、スイミーだけが逃げ延びた。そして…

寂しく、悲しいスイミーは、失意の中、暗い海の底をただひたすら泳いでいくうちに、海にある素晴らしく面白い生き物や植物に出逢い前向きになっていくのです。

にじいろのゼリーのような くらげ、すいちゅうブルドーザーみたいな えび、
さかなやこんぶ と、海の中で暮らす生き物や植物、岩や砂利等を、レオレオニさんは、様々な技法や彩色を駆使し、それはそれは、例えようもない美しさで表現されています。
優しい色合いや海の透き通る色。様々な色が混ざり合い、醸し出す海の世界。景色や、底辺の砂利や砂に至るまでの、何とも言えないセンスの良さ。
グラフィックデザイナーや、画家や彫刻家としても活躍された作者の素材の知識や技術の確かさが感じられます。

きょうだいの中で、一匹だけ黒く生まれてきたスイミー。どうして、自分だけ黒いのかなと、気になる時もあったでしょう。でも誰よりも泳ぐのが早く、マグロにおそわれた時に、一匹だけ逃げ延び、生き残り、強く生きていきます。
レオ=レオニのお話の主人公は(すべて知っている訳ではありませんが)、他者と違う自分は何者だろうかと悩んだり、小さな生き物が知恵と勇気で危機を乗り越えようと、頑張ったりします。そして皆、家族や友人をとても大切にしています。

スイミーも、自分の仲間や居場所を守る為に、勇気をもって皆を鼓舞し、知恵を出し、皆の中で自分だけ黒いという個性を最大限に生かして大きな魚に立ち向かっていくのです。
大きな海の中の小さな生き物達の世界のお話を、繰り返し手に取りながら、やがて、自分の世界に置き換えてみたりして、色々な事を感じたり、学んだり、勇気をもらったりしながら、創造力が育っていくのではないでしょうか。
小さな子ども達の大きな成長の傍に、置いておきたい絵本です。

 

絵本「かわ」

「かわ」
福音館書店
加古里子 作/絵

就学前に読むべし!かこさとしさんの川や海の絵本図鑑がおすすめの理由

「かわ」は、1962年に初版された絵本です。作者は、2018年に92歳で亡くなられた絵本作家 加古里子さんです。
この方は、色々な肩書をお持ちの方で、化学技術者でもいらっしゃいます。他にも大学の講師をされていたり、児童文化の研究をされていたりと、その豊かな知識は、たくさんの作品に生かされているように思います。

「たかい やまに つもった ゆきがとけて ながれます。やまにふった あめも ながれます。みんな あつまってきて、ちいさいながれを つくります。」
お話のはじまりです。
小さな流れは、山の湧水等と一緒になり、岩にぶつかり、滝になって落ち、谷川となって山を下ります。
ダムにせき止められたり、木々を運んだりして、少しづつ人間の暮らしに関わりながら険しいがけの間をしぶきをあげながら流れ出ていき、その間に大きな岩も、激しい水の勢いで削られ、だんだん丸くなり、押し流されてぶつかり合って、小さな石ころになっていきます。
その様子は細かく絵本の隅々まで描かれいて、次のページにずっと繋がっていきます。
例えば、山で切り出された木々が川で運ばれ、森林起動で更に運ばれてどうなっていくのかを、ページをこえて描かれています。

ページをめくる度に かわ は大きく広くなっていきますが、ずっとつながっていて、様々な仕事や生活等に かわ が深く関わっている暮らしが細部まで、丁寧に描かれています。

もう 60年以上も前に作られた絵本なので、人々の生活の様子は現代とは違っていますが、少し前の時代まで、この様な生活もあったのだなぁと、面白く、見入ってしまいます。
本当に細かくて「せんたくしてる」「あ、竹馬乗ってるひとがいる」「釣りをしてるね」「これは、何してるの?」等々…見ていると、とても面白いんです。
また、かわ を利用しての仕事も様々描かれていて、その仕事の内容や、使われている機械や建物、場所の名前なども、小さな文字で書かれていて「へ~」ってちょっとお勉強になったりします。

かわ はそこから先もどんどん流れ、街へ流れ出ていき、そこでは、直接川の水を使って、生活したり、遊んだりする事はなくなっていきますが、浄水場に取り込まれ、ここできれいにされて、私たちのところまで運ばれてきたり、山奥の発電所から高圧線で送られてきた電気が変電所につながり、ここから私たちの家や、工場などに運ばれてくることも、ちゃんと描かれています。

いつも当たり前のように、水道からでてくる水、スイッチを入れるとパッと明るく照らしてくれる電気等は、流れている かわ の恵みである事、
私たちの生活は、自然と無関係ではなく、むしろ自然がおろそかにされたら、成り立っていけない事、そんな当たり前のことを思い出させてくれます。

川は、山奥で滝となって下って来た時とは様変わりしてゆったりと流れ、海へとつながります。
 最後の真っ青な海の絵と、「うみを こえて いこう。ひろいせかいへ」
という言葉は、この広くて深く大きな自然を尊く思う作者の気持ちと、子ども達に、広い うみ のように大きな希望をもって成長し、飛び立っていってほしいという願いが込められているように感じます。 

最後に…この絵本を紹介するにあたり、初版の情報等を調べていたら、
「こどものとも」創刊60周年を記念して ロングセラーである「かわ」を絵巻じたてにして出版されていることを知りました。
折りたたまれたページをひろげると約7メートル、源流から海までの川の旅が一望できるみたいです。私も是非、見てみたいと思いました。

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