ひろすけ童話「むく鳥のゆめ」

ひろすけ童話「むく鳥のゆめ」

集英社版
浜田廣介 作
深沢邦朗 画

s 昭和書籍 初版 ひろすけ童話 むく鳥のゆめ 浜田廣介 画 深沢邦朗 オールカラー 集英社 昭和42年 昭和レトロ /F45(絵本一般 ...

昔、夜眠る前に母によく読んでもらった絵本。とても古い絵本ですが、大切にしています。
浜田廣介という、とても有名な童話作家の作品なので、何作か同じお話の絵本が出版されていますが、実家にあったのはこの絵本でした。
以前にブログに記した「ないた あかおに」もこの方の作品です。

お話は…
広い野原の真ん中に立つ古いくりの木。その木のほらの中に、むく鳥の子どもと、とうさん鳥が住んでいました。
秋になり、すすきの ほ が白くなると、とうさん鳥は、その ほ をくわえて 
すのなかに持ってきて温まり、やがて寒い冬を迎えても、そのすすきのほ のおかげで困らずに暮らせていました。

寒く天気の悪い日が続いたある日、むく鳥の子はふと、母さん鳥に気がつきます。遠いところへ出かけたと思っていたけれど、なかなか帰ってこないのを気にして、とうさん鳥に尋ねます。
とうさん鳥は、かあさん鳥がもう この世にいないとは言えず、
「いまごろは、うみの上をとんでいるの。」
「もう、いまごろは、やまをこえたの。」
と、聞くむく鳥の子に、「ああ、そうだよ。」と、答えるだけでした。
なかなか帰ってこないかあさん鳥が恋しいむく鳥の子は、木に残った たった一枚の葉っぱが、かさこそ、かさこそ…というだけでも「おかあさんかな」と、思ってしまっていました。
でも、寒くなり、風が今にも茶色くなった枯れ葉をもぎ取ってしまいそうです。
それを見た むく鳥の子は…

とても寂しく、切ないお話。でも私は、このお話を母親に何度か読んでほしいといったのでしょう、読んでもらった事をよく覚えています。
子どもにとってお母さんという存在が、どれほど大切なものか、どれほど恋しいものかが、切々と伝わってくるこの絵本を、読んでもらった声や腕枕してもらったぬくもりを思い出すのです。
前回、ブログに記した「ねないこだれだ」と同様に、むく鳥の子がお母さんを恋しがり、葉っぱのゆれる音にお母さんを感じて眠る姿に、心がきゅっとなったり、そばにいるお母さんを感じて安心したり という相反する感情が、子どもの感受性を豊かに成長させてくれるのかな、だから、印象的で、よく覚えているのかなと、思いました。

またこの絵本は、深沢邦朗という童画家が描いておられる 挿絵もとても素晴らしく、秋から冬に移り行く季節や、雪がしんしんと降ってくる様子、木の色やすすきの穂のあたたかそうな風合い、色合いの少ない季節に反してきれいな羽のむく鳥の子の姿など、印象的な素晴らしい挿絵です。

寒くなって来たこの季節に、読んであげたい名作童話です。

 

絵本「コーギビルのゆうかい事件」

「コーギビルのゆうかい事件」

メディアファクトリー

ターシャ・チューダー/絵・文
食野雅子/訳

コーギビルのゆうかい事件/ターシャ・テューダー/絵・文 食野雅子/訳 本・コミック : オンライン書店e-hon

この第2作「コーギビルのゆうかい事件」は、前回、書き記した第1作「コーギビルの村まつり」から26年後の1997年、ターシャ82歳の時の作品です。

「コーギビルの村まつり」ではまだ子犬だったコーギー犬のケイレブは、ヤギレースで得た賞金を大学へ行く為の資金にするために貯金していましたが、この第2作では、大学を優秀な成績で卒業し、コーギビル村の有名な探偵事務所で働いている設定になっています。

さて、内容は…
探偵事務所で働いているケイレブは、最近 村で見かけるアライグマが増えている事が気になっていました。悪がしこいアライグマのこと、何か企んでいるにちがいないと、調べ始めていたところ、色々と怪しい動きに気づきます。
そんな時不安が的中し、マート達が大切に お世話をしている世界一のおんどり、ベーブが誘拐されてしまいます。
捜索に許される時間は、4時間しかありません。ベーブの命を助ける為に、ケイレブは、一人では救出に向かいますが…。という展開です。

ケイレブが、アライグマの動きが怪しいと、調べていく過程での村の 住民たちとの細かいやりとりや、何を企んでいるのか気付く場面のスリリングな展開は、絵本なのに、立派に探偵物のストーリーさながらで、読んでいる私たちも「ベーブがあぶない!」と、ハラハラします。
また、ケイレブがベーブを見つけ出し、助け出す場面も、勇気とスピード感にあふれていて、この作品を作り上げたターシャの年齢を考えると、尊敬しかありません。きっと、どんなに歳を重ねようとも、子ども心を忘れない、少しわがままな、チャーミングな女性だったのではないかと勝手に想像しています(笑)

様々な紹介文で、ストーリーは素晴らしいが、さすがに82歳という年齢のせいか
「コーギビルの村まつり」と比べて絵の緻密さに衰えが…という評価を見かけますが、確かにそうです。
線画もラフで、二重に見えるところもありますし、色合いも精彩を欠いているのかもしれません。
それでも、前作より というだけで、全体の街並みやページごとの構成のセンスの良さ、小物類を丁寧に描き込まれているところなど、見事です。
何より、ストーリーがよく考えられていて、様々な伏線を回収しながら、エンディングへ向かっていくスピード感は、「コーギビルの村まつり」同様、感動ものです。
その後、コーギビル村へ帰り、村のみんなに歓迎、慰労してもらったケイレブと鶏のベーブが、1番最後のページで 握手しているのが微笑ましく、最後の最後のページまで手を抜かず作り上げる、ターシャ・チューダーの絵本作りの情熱に感じ入ります。

ターシャ・チューダーという方の生き方にも、興味を惹かれる この名作絵本を、是非手に取って、読んで頂ければと思います。

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絵本「スイミー ちいさな かしこい さかなの はなし」

「スイミー」
 ちいさな かしこい さかなの はなし

好学社

レオ=レオニ
訳 谷川俊太郎

レオ=レオ二 | 祈りの丘絵本美術館 | こどもの本の童話館グループ

私が、はじめてレオ=レオニという絵本作家を知ったのは「あおくんと きいろちゃん」という絵本。
とても綺麗な色彩で描かれていて、混ざり合うと黄緑色になる透き通った色合いが印象的な絵本でした。
  「あおくんときいろちゃん」も、シンプルな中にとても深いメッセージが込められている素晴らしい絵本ですが、今は暑い季節なので、海のお話を紹介したいと思います。

お話は…広い広い海の中、小さな魚のきょうだいたちがくらしてた。みんな赤いのに一匹だけ真っ黒な魚がいた。それがスイミー。みんなと違ってたけど、泳ぐのは誰よりも早かった。
そんなある日、おそろしいマグロがやって来て、きょうだいたちがあっという間に飲み込まれ、スイミーだけが逃げ延びた。そして…

寂しく、悲しいスイミーは、失意の中、暗い海の底をただひたすら泳いでいくうちに、海にある素晴らしく面白い生き物や植物に出逢い前向きになっていくのです。

にじいろのゼリーのような くらげ、すいちゅうブルドーザーみたいな えび、
さかなやこんぶ と、海の中で暮らす生き物や植物、岩や砂利等を、レオレオニさんは、様々な技法や彩色を駆使し、それはそれは、例えようもない美しさで表現されています。
優しい色合いや海の透き通る色。様々な色が混ざり合い、醸し出す海の世界。景色や、底辺の砂利や砂に至るまでの、何とも言えないセンスの良さ。
グラフィックデザイナーや、画家や彫刻家としても活躍された作者の素材の知識や技術の確かさが感じられます。

きょうだいの中で、一匹だけ黒く生まれてきたスイミー。どうして、自分だけ黒いのかなと、気になる時もあったでしょう。でも誰よりも泳ぐのが早く、マグロにおそわれた時に、一匹だけ逃げ延び、生き残り、強く生きていきます。
レオ=レオニのお話の主人公は(すべて知っている訳ではありませんが)、他者と違う自分は何者だろうかと悩んだり、小さな生き物が知恵と勇気で危機を乗り越えようと、頑張ったりします。そして皆、家族や友人をとても大切にしています。

スイミーも、自分の仲間や居場所を守る為に、勇気をもって皆を鼓舞し、知恵を出し、皆の中で自分だけ黒いという個性を最大限に生かして大きな魚に立ち向かっていくのです。
大きな海の中の小さな生き物達の世界のお話を、繰り返し手に取りながら、やがて、自分の世界に置き換えてみたりして、色々な事を感じたり、学んだり、勇気をもらったりしながら、創造力が育っていくのではないでしょうか。
小さな子ども達の大きな成長の傍に、置いておきたい絵本です。

 

絵本「かわ」

「かわ」
福音館書店
加古里子 作/絵

就学前に読むべし!かこさとしさんの川や海の絵本図鑑がおすすめの理由

「かわ」は、1962年に初版された絵本です。作者は、2018年に92歳で亡くなられた絵本作家 加古里子さんです。
この方は、色々な肩書をお持ちの方で、化学技術者でもいらっしゃいます。他にも大学の講師をされていたり、児童文化の研究をされていたりと、その豊かな知識は、たくさんの作品に生かされているように思います。

「たかい やまに つもった ゆきがとけて ながれます。やまにふった あめも ながれます。みんな あつまってきて、ちいさいながれを つくります。」
お話のはじまりです。
小さな流れは、山の湧水等と一緒になり、岩にぶつかり、滝になって落ち、谷川となって山を下ります。
ダムにせき止められたり、木々を運んだりして、少しづつ人間の暮らしに関わりながら険しいがけの間をしぶきをあげながら流れ出ていき、その間に大きな岩も、激しい水の勢いで削られ、だんだん丸くなり、押し流されてぶつかり合って、小さな石ころになっていきます。
その様子は細かく絵本の隅々まで描かれいて、次のページにずっと繋がっていきます。
例えば、山で切り出された木々が川で運ばれ、森林起動で更に運ばれてどうなっていくのかを、ページをこえて描かれています。

ページをめくる度に かわ は大きく広くなっていきますが、ずっとつながっていて、様々な仕事や生活等に かわ が深く関わっている暮らしが細部まで、丁寧に描かれています。

もう 60年以上も前に作られた絵本なので、人々の生活の様子は現代とは違っていますが、少し前の時代まで、この様な生活もあったのだなぁと、面白く、見入ってしまいます。
本当に細かくて「せんたくしてる」「あ、竹馬乗ってるひとがいる」「釣りをしてるね」「これは、何してるの?」等々…見ていると、とても面白いんです。
また、かわ を利用しての仕事も様々描かれていて、その仕事の内容や、使われている機械や建物、場所の名前なども、小さな文字で書かれていて「へ~」ってちょっとお勉強になったりします。

かわ はそこから先もどんどん流れ、街へ流れ出ていき、そこでは、直接川の水を使って、生活したり、遊んだりする事はなくなっていきますが、浄水場に取り込まれ、ここできれいにされて、私たちのところまで運ばれてきたり、山奥の発電所から高圧線で送られてきた電気が変電所につながり、ここから私たちの家や、工場などに運ばれてくることも、ちゃんと描かれています。

いつも当たり前のように、水道からでてくる水、スイッチを入れるとパッと明るく照らしてくれる電気等は、流れている かわ の恵みである事、
私たちの生活は、自然と無関係ではなく、むしろ自然がおろそかにされたら、成り立っていけない事、そんな当たり前のことを思い出させてくれます。

川は、山奥で滝となって下って来た時とは様変わりしてゆったりと流れ、海へとつながります。
 最後の真っ青な海の絵と、「うみを こえて いこう。ひろいせかいへ」
という言葉は、この広くて深く大きな自然を尊く思う作者の気持ちと、子ども達に、広い うみ のように大きな希望をもって成長し、飛び立っていってほしいという願いが込められているように感じます。 

最後に…この絵本を紹介するにあたり、初版の情報等を調べていたら、
「こどものとも」創刊60周年を記念して ロングセラーである「かわ」を絵巻じたてにして出版されていることを知りました。
折りたたまれたページをひろげると約7メートル、源流から海までの川の旅が一望できるみたいです。私も是非、見てみたいと思いました。

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