絵本「ごろはちだいみょうじん」

「ごろはちだいみょうじん」
福音館書店
中川正文 さく
梶山敏夫 え

ごろはちだいみょうじん こどものとも絵本 : 中川正文 | HMV&BOOKS online - 9784834002034

「べんてはんの もりの ごろはちは、えらいてんごしいの たぬきやった。」
ということばで始まる この絵本は1969年に福音館書店から発行されている 古い絵本です。
この温かみのある方言の言い回しと、絵の感じが面白いというか印象的で、大好きな絵本でした。
調べてみたら、この方言は、作者が生まれ育った、奈良県は大和地方の方言だそうで、その言葉で語られる心にしみる物語。

作者の中川正文さんは、京都女子大学教授、日本児童文学学会会長等を歴任され、自動文学の向上に尽力した方のようです。
絵本もたくさん作られていますが、私が知っているのは「ごろはちだいみょうじん」の他に「きつねのおはなはん」「ねずみのおいしゃさま」「いちにちにへんとおるバス」があります。どれも、温かいストーリーが魅力の素敵な絵本です。

絵を描かれた梶山敏夫さんは、様々な絵本で印象的な絵を描いておられる絵本作家ですが、画家としても抽象画、木版画、陶作品、ガラス絵など、様々な分野で才能を発揮されていた方だそうです。
あまり直線がなく、ゆらゆらとした太い線と細い線の筆のような質感の輪郭で、動物や植物、建物や人間が描かれている特徴のある絵のタッチでが温かみがあり、私はよく昔話や民話の物語で、この方の絵に親しんできました。
私の知っている作品では「ごろはちだいみょうじん」の他に「さんまいのおふだ」「島ひきおに」「おんちょろちょろ」等、たくさんあります。

お話は…
べんてはんの森のごろはちは、たいそういたずら者で、人をだましたり、ごちそうを盗んだりしていましたが、ごちそうを盗んでも、後で山の木の実を返しておくような几帳面なタヌキでした。
ある時、村はずれで鉄道を敷く工事が始まりました。やがて工事が終わり、初めて汽車が音を立ててやってくるのを見た村人たちは、煙をはいて近づいて来る、へんてこりんな、かぶとむしのおばけみたいなものを、汽車だとは思わず、
「ひょっとしたら、こら ごろはちにだまされとるのとちがうやろか」と、ごろはちが化けたものだと勘違いし、笑いながら、線路に飛び出してしまいます。
それを見たごろはちは、「てんごと ちがう。わるさしとるのやない。あれは ほんものやがな」と、汽車の前に立ちはだかり…。

なんとも悲しい結末ですが、そこは、悲しい中にもユーモアを交えたラストになっていて、心が温まる終わり方となっています。
方言というのは、不思議ですね。子どもの頃 私は何度か読んでいて、意味が解らないから面白くないと思ったことは 一度もありません。
何度か読むうちに、リズムのようになって、体にスッと入り、心地良く物語を楽しめるものになっていきます。
「ごろはちだいみょうじん」も、方言の温かみを感じながら、ユーモアの中にある人情や情け深さ、思いやりなどに感じ入る 味わい深い名作絵本です。

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絵本「コーギビルのゆうかい事件」

「コーギビルのゆうかい事件」

メディアファクトリー

ターシャ・チューダー/絵・文
食野雅子/訳

コーギビルのゆうかい事件/ターシャ・テューダー/絵・文 食野雅子/訳 本・コミック : オンライン書店e-hon

この第2作「コーギビルのゆうかい事件」は、前回、書き記した第1作「コーギビルの村まつり」から26年後の1997年、ターシャ82歳の時の作品です。

「コーギビルの村まつり」ではまだ子犬だったコーギー犬のケイレブは、ヤギレースで得た賞金を大学へ行く為の資金にするために貯金していましたが、この第2作では、大学を優秀な成績で卒業し、コーギビル村の有名な探偵事務所で働いている設定になっています。

さて、内容は…
探偵事務所で働いているケイレブは、最近 村で見かけるアライグマが増えている事が気になっていました。悪がしこいアライグマのこと、何か企んでいるにちがいないと、調べ始めていたところ、色々と怪しい動きに気づきます。
そんな時不安が的中し、マート達が大切に お世話をしている世界一のおんどり、ベーブが誘拐されてしまいます。
捜索に許される時間は、4時間しかありません。ベーブの命を助ける為に、ケイレブは、一人では救出に向かいますが…。という展開です。

ケイレブが、アライグマの動きが怪しいと、調べていく過程での村の 住民たちとの細かいやりとりや、何を企んでいるのか気付く場面のスリリングな展開は、絵本なのに、立派に探偵物のストーリーさながらで、読んでいる私たちも「ベーブがあぶない!」と、ハラハラします。
また、ケイレブがベーブを見つけ出し、助け出す場面も、勇気とスピード感にあふれていて、この作品を作り上げたターシャの年齢を考えると、尊敬しかありません。きっと、どんなに歳を重ねようとも、子ども心を忘れない、少しわがままな、チャーミングな女性だったのではないかと勝手に想像しています(笑)

様々な紹介文で、ストーリーは素晴らしいが、さすがに82歳という年齢のせいか
「コーギビルの村まつり」と比べて絵の緻密さに衰えが…という評価を見かけますが、確かにそうです。
線画もラフで、二重に見えるところもありますし、色合いも精彩を欠いているのかもしれません。
それでも、前作より というだけで、全体の街並みやページごとの構成のセンスの良さ、小物類を丁寧に描き込まれているところなど、見事です。
何より、ストーリーがよく考えられていて、様々な伏線を回収しながら、エンディングへ向かっていくスピード感は、「コーギビルの村まつり」同様、感動ものです。
その後、コーギビル村へ帰り、村のみんなに歓迎、慰労してもらったケイレブと鶏のベーブが、1番最後のページで 握手しているのが微笑ましく、最後の最後のページまで手を抜かず作り上げる、ターシャ・チューダーの絵本作りの情熱に感じ入ります。

ターシャ・チューダーという方の生き方にも、興味を惹かれる この名作絵本を、是非手に取って、読んで頂ければと思います。

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