「コーギビルの村まつり」
メディアファクトリー
ターシャ・チューダー/絵・文
食野雅子/訳
アメリカの小さな町や村の最大のイベントは、おまつり。この絵本の舞台であるコーギビル村もそうでした。
この物語は、クリスマスの次に楽しい 村まつりのお話で、主人公はコーギー犬のケイレブです。他にも、犬、猫、ウサギ、ニワトリ、カラスが登場します。そして、忘れてはいけないのが、ボガートという妖精です。
妖精というと、可愛らしい姿を想像しますが、この絵本に出てくる妖精は、どちらかというとトロルのようです。でも、このボガートが、結構キーパーソンで、この絵本を面白くしてくれています。
コーギビルの村まつりの最大のイベントは、ヤギのグランドレース。ケイレブは、このレースに向けて、ヤギのジョセフィーンを何カ月もかけて調教したり、体重管理をしたりしてきました。また、ヤギの事に詳しい、ボガートのマートのところへ足しげく通い、色々アドバイスも受けていました。
でも、優勝を狙う、ずる賢い猫のエドガー・トムキャットが、汚い手を使って、ケイレブの邪魔をしようとしていて…という展開。
お話は、場面場面ごとに細やかな描写で描かれているし、主要人物、例えばケイレブの家族一人一人の性格や暮らしぶりや、お祭りに向けてどんな風にこの一年を過ごしてきたか等もほのぼのと、丁寧に描かれているので、お話はその分長くなるのですが、だからこそ、絵本の世界に入り込み、感情移入できるような気がします。
また、宿敵トムキャットについても、あまり村で評判が良くない理由も早い段階で触れています。
様々な人物の感情が絡み合い、おまつりに向けてお話が進んでいき、そして、9月になり、収穫の時期になってくる頃には、準備も最終段階に入る様子が念入りに描かれます。そして、お祭り当日の一日の流れや、ヤギレースへの不穏な流れも分刻みで描かれ、スピード感が増し、ワクワク ハラハラ ドキドキの展開に、読者は、お話の世界に引きずり込まれていきます。
一年間、おまつりを楽しみに日々の生活を頑張る村の人々や、育てた農作物や生き物への愛情など、これこそが本当に子育てに大切なものなのではないかと、思い出させてくれるお話を、久しぶりに手に取ってみて、忙しすぎる今の世の中、こんな風に暮らしてみたいな、いや、でもやっぱり大変だよなぁなーんて、ちょっと考えてしまいました。
とても、読みごたえのある一冊ですが、なんといっても、絵が素晴しく、何と表現したら伝わるのかわかりません。
お店屋さんひとつとっても、隅々まで丁寧に描かれていて、家具、雑貨や食べ物に至るまで全てこだわりをもって描かれています。
主人公のケイレブは作者である ターシャの愛犬、また、出てくる動物たちは、すべて、ターシャが飼っている動物たちがモデルだと思われるので、絵の中の生き物たちへの作者の愛情が伝わってきます。
動物好き、特にコーギー犬好きには、たまらない絵本だと思います。
作者のターシャ・チューダーは、アメリカの絵本画家、挿絵画家、人形作家、園芸家です。
ターシャが1971年 57歳の頃に、ニューイングランド地方 バーモント州南部の小さな町で、30万坪の広大な土地に「コーギーコテージ」と言われる家を建て、庭を作り、スローライフな生活を営み始めます。
一日の大半を草花の手入れに費やし、着るものやエプロンを手作りし、山羊の乳を絞り、庭でとれた果実でジャムを作り、パイを焼いたりして暮らしていたそうです。
「コーギビルの村まつり」は、いつ描かれていたのか詳しい事はわかりませんが、ちょうどターシャが生活を変化させた頃に、刊行されています。
日本での出版は、それよりも20年程後のことになりますので、私はその頃購入して、子ども達に読んであげていました。
子ども達、特に長男は このお話が大好きで、何度も何度も読み聞かせをしましたが、長いので、私の方が先に寝落ちしてしまう事も度々あったと記憶しています。
ターシャ・チューダーについては、沢山の書籍や、また、テレビなどで紹介されています。その暮らしぶりや、どうして、その様な生活を営むに至ったか等、文章では伝えきれないので、是非、物語の中のような暮らしぶりを、書籍や映像で のぞいて見て頂ければと、思います。
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