絵本「コーギビルのゆうかい事件」

「コーギビルのゆうかい事件」

メディアファクトリー

ターシャ・チューダー/絵・文
食野雅子/訳

コーギビルのゆうかい事件/ターシャ・テューダー/絵・文 食野雅子/訳 本・コミック : オンライン書店e-hon

この第2作「コーギビルのゆうかい事件」は、前回、書き記した第1作「コーギビルの村まつり」から26年後の1997年、ターシャ82歳の時の作品です。

「コーギビルの村まつり」ではまだ子犬だったコーギー犬のケイレブは、ヤギレースで得た賞金を大学へ行く為の資金にするために貯金していましたが、この第2作では、大学を優秀な成績で卒業し、コーギビル村の有名な探偵事務所で働いている設定になっています。

さて、内容は…
探偵事務所で働いているケイレブは、最近 村で見かけるアライグマが増えている事が気になっていました。悪がしこいアライグマのこと、何か企んでいるにちがいないと、調べ始めていたところ、色々と怪しい動きに気づきます。
そんな時不安が的中し、マート達が大切に お世話をしている世界一のおんどり、ベーブが誘拐されてしまいます。
捜索に許される時間は、4時間しかありません。ベーブの命を助ける為に、ケイレブは、一人では救出に向かいますが…。という展開です。

ケイレブが、アライグマの動きが怪しいと、調べていく過程での村の 住民たちとの細かいやりとりや、何を企んでいるのか気付く場面のスリリングな展開は、絵本なのに、立派に探偵物のストーリーさながらで、読んでいる私たちも「ベーブがあぶない!」と、ハラハラします。
また、ケイレブがベーブを見つけ出し、助け出す場面も、勇気とスピード感にあふれていて、この作品を作り上げたターシャの年齢を考えると、尊敬しかありません。きっと、どんなに歳を重ねようとも、子ども心を忘れない、少しわがままな、チャーミングな女性だったのではないかと勝手に想像しています(笑)

様々な紹介文で、ストーリーは素晴らしいが、さすがに82歳という年齢のせいか
「コーギビルの村まつり」と比べて絵の緻密さに衰えが…という評価を見かけますが、確かにそうです。
線画もラフで、二重に見えるところもありますし、色合いも精彩を欠いているのかもしれません。
それでも、前作より というだけで、全体の街並みやページごとの構成のセンスの良さ、小物類を丁寧に描き込まれているところなど、見事です。
何より、ストーリーがよく考えられていて、様々な伏線を回収しながら、エンディングへ向かっていくスピード感は、「コーギビルの村まつり」同様、感動ものです。
その後、コーギビル村へ帰り、村のみんなに歓迎、慰労してもらったケイレブと鶏のベーブが、1番最後のページで 握手しているのが微笑ましく、最後の最後のページまで手を抜かず作り上げる、ターシャ・チューダーの絵本作りの情熱に感じ入ります。

ターシャ・チューダーという方の生き方にも、興味を惹かれる この名作絵本を、是非手に取って、読んで頂ければと思います。

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絵本「ちいさな ヒッポ」

「ちいさなヒッポ」
偕成社
マーシャ=ブラウン さく
うちだ りさこ やく

絵本『ちいさなヒッポ』の内容紹介(あらすじ) - マーシャ=ブラウン,うちだりさこ | 絵本屋ピクトブック

かばの親子の表紙を開くと、川辺の夕暮れなのか、夕焼けに染まった、とても綺麗な見返しのページが目に飛び込んできます。
赤く染まった水面から、目と鼻と耳だけ出している かば と、飛び立つ 鶴 、そして、パピルスの茂み。
この絵本は、有名な「三びきのやぎの がらがらどん」の作者 マーシャ・ブラウンによって作られた、美しい木版画の絵本です。
植物や動物、鳥や水など、アフリカの風景が美しく力強く描かれいて、どのページを切り取っても、額に入れて飾れるくらい素敵です。

お話の主人公は、まだ幼い かば の子ども「ヒッポ」。
ヒッポは、お母さんが大好き♡ 川辺のパピルスのしげみで生まれた時から、お母さんのそばを離れたことがありません。
大きくてあたたかいお母さんのそばにいれば、ヒッポはこわいものなしでした。

そんなヒッポも、少しずつ成長し、かばのことばを覚える時がきました。生きていく上で必要で大切な言葉を覚え、練習するのです。
教えてもらった言葉を使い、出会った動物や、仲間のかばに話しかけるヒッポ。小さな かば の子の好奇心旺盛な様子が伝わってきます。しまうまや水牛等、様々な動物や自然の風景がページをめくる度に登場しますが、色使いや表情など、木版画であることに驚かされると同時に、木版画でなければこの様に表現できないでしょうと、思えます。

大きなお母さんの強さと、愛情の深さ。動物の世界で生きていく厳しさ。また、生きるために小さなかばを狙うワニ。
藍色のかばと、黒でふちどられた 黄緑色のワニと、さらに口の中の赤色が効果的で、迫力があり、故に、お母さんの子どもを守ろうとする愛情が、深く伝わってきます。

読み終わり、表表紙と裏表紙を広げると、お母さんのとヒッポの大きさの違いがよくわかって、最後の最後まで楽しめます。
また、この素晴らしい木版画の絵本を製本してある紙の質感が、とても素敵です。ざらざらはしてないですが、つるつるしてなくて、厚過ぎず、薄過ぎず、良い手触りで、何よりも木版画の素晴らしさが見る人に伝わってきます。
また、水辺のかばたちや、パピルスのしげみが涼しげで、水の冷たさが心地よくなってきた季節に読んで聞かせてあげるのに、ピッタリです。

この絵本を読んだ子ども達に、広い世界に生きる様々な生き物に興味をもってほしいし、お父さんやお母さんの深い愛情は、優しさと同時に厳しさもある事を知って安心して成長していってほしいと、感じます。

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童話「ちびくろサンボ」

「ちびくろサンボ」
ワイドカラー世界の名作童話 6
原作 ヘレン・バンナーマン
文  宮川やすえ
絵  小野木 学

世界名作童話全集 10 学習版 ちびくろサンボ|中古絵本の販売|えほんポケット   ワイドカラー 世界名作童話6 ちびくろサンボ カバー無し 昭和43年1月30日発行 初版 1968年 講談社 ジャックと豆の木(名作)|売買さ ...

「ちびくろサンボ」という面白いお話は、とても有名なお話です。子どもの頃、我が家にあった
「ちびくろサンボ」の絵本はワイドカラー世界の名作童話シリーズ6「ちびくろサンボ」という絵本でしたが、古すぎて、今ではもう簡単には手に入らないと思います。私はこの本が大好きでした。
私が持っているこの古い絵本も、トラが青いズボンをはいている次のページが破れて無くなってしまっているので、子ども達に読み聞かせた時には、文章を作って読んだものです。

「ちびくろサンボ」は、もう何年も前に人種差別で問題になり、長く絶版になった時期があったかと思います。私はその経緯を詳しくは知りませんが、文の中の「くろんぼ」という呼び方がいけなかったのでしょうか…再販された瑞雲舎の「ちびくろ・さんぼ」では「ちいさな くろい おとこのこ」という表現になっています。


そんなすったもんだの歴史があるお話ですが、内容はとっても面白い童話です。
お母さんとお父さんに作ってもらったり、買ってもらったりした 洋服や傘や靴を身につけて 散歩に出かけたサンボは、ジャングルで4匹のトラに出会い、身ぐるみはがされてしまいます。
可哀想なサンボが、泣きながら歩いていると、トラたちがサンボから奪ったものを身につけて、「俺がジャングルで1番のトラだー!」と喧嘩を始めます。
最後は、喧嘩をしながら 木の周りをグルグル回って前のトラにかみついて、更にグルグル回って、黄色いバターになってしまうのです。

トラがバターになってしまう、そしてその後…最後の展開が強烈に印象的なお話で、面白すぎて一度読んだら忘れられません。
そしてこの古い絵本の トラバターが、すごーく美味しそうなのです。サンボ、お母さんのマンボ、お父さんのジャンボのキャラクター達も個性豊かに描かれていて、異国を感じながらも、親しみやすく、生き生きとお話が進んでいきます。

貴重な子ども時代に、こんな風に心から楽しい、面白いと思える絵本や童話に出逢える喜びを、沢山の子ども達に味わってほしいと思います。

 この講談社の絵本、どこかで手に入るのかな、このブログを読んで興味のある方、良かったら探してみてください。この名作童話の中には、他に「ジャックとまめの木」「ガリバー旅行記」と、字だけのお話「かべぬけせんにん」が掲載されています。どのお話も、本当に魅力的な素晴らしい絵本です。ちなみに裏表紙を見ると、価格は¥360ですって!

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絵本「クリーナおばさんとカミナリおばさん」

クリーナおばさんカミナリおばさん
福音館書店
西内みなみ・さく
堀内誠一 ・え

クリーナおばさんとカミナリおばさん に対する画像結果

たくさんの電化製品にお世話になって日常生活を送っている私たち。私は、機械音痴というのもあって、自宅の電化製品事情は最先端ではありませんが、それでも朝は電気仕掛けで様々な電化製品が、起きる前から働いてくれています。朝、停電が起きたら洗濯も掃除も終わらないし、ご飯も炊けていないでしょう。ありがたいことです。



私は常々、そんな有難い電化製品達には、命あるものと思って接しています。暑い夏にブンブン働いている冷蔵庫、毎日の洗濯はもちろん、季節の変わり目には毛布などの大物もたくましく洗ってくれる10年選手の洗濯機、子ども達が学生だった頃のお弁当作りには、なくてはならなかった電子レンジ、他には、空気清浄機、ドライヤー、掃除機、テレビ…もう数え切れません。

この子達が壊れて、廃棄しなくてはならなくなった時には、「今までありがとう」という気持ちで いつも見送ってきました。電化製品だけではなく、長くお世話になった物も同じです。
そんな気持ちが芽生えたのは、もしかしたら子供の頃、この絵本を読んだからかもしれません。

お話は、掃除機のクリーナおばさんがせいそうトラックに乗せられてごみじまに運ばれていくところから始まります。トラックに乗っている捨てられた電化製品達は、口々に「まだ 働けるのに」と、文句を言いますが、ごみじまにガシャガシャと捨てられてしまいました。
周りには捨てられた電化製品達がたくさんいてみんなに「さけんでみても、むだだよ」と言われます。それでも、クリーナおばさんが「もういちど、どこかではたらいてみせる」と頑張っていたその時、ごみじまにカミナリが落ちて、カミナリおばさんがやってきます。
そして…  カミナリやまに連れていかれて…というお話。

このお話は、絵本「ぐるんぱのようちえん」と同じ、西内みなみさんと堀内誠一さんによって作られた絵本です。堀内誠一さんと言えば、前回紹介した「こすずめのぼうけん」と同じ画家の方ですが、全く絵のタッチが違います。「こすずめのぼうけん」は、写実的でやわらかいタッチですが、こちらは、直線的で、電気がビリビリしている感じが伝わる絵になっています。
その元気な絵と面白いストーリーの中で、インパクトのあるグイグイ系のカミナリおばさんが頼もしく、一気に読み終わってしまいます。


ごみじまのくらーい夜に、ババババ ビビビビ…とやってきて、「ほいよーっ」とクリーナおばさんに乗ってかみなりやまに連れていく展開が本当に爽快で、また、ごみじまのくらーい夜と、電気が流れてからの明るい画面が対照的、まるでクリーナおばさんの明るくなっていく気持ちに比例しているようです。


根底には、ごみ問題や使い捨ての時代へのメッセージなど、子ども達に何かを感じてもらいたいものもあるのかなと、大人は色々感じますが、単純に面白くて、たくさんの子ども達に届けたいと思える楽しい絵本です。ただ、もう大人になってしまった私は、人も、誰かの役に立ってこそ、必要とされてこそ、生きがいを感じるものではないかな、そんな大切なことが絵本を読んだ子ども達の心の中に灯ってくれるかな、と思いながら読み聞かせしています。

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絵本「こすずめのぼうけん」

「こすずめのぼうけん」
福音館書店
ルース・エインワース 作
石井桃子       訳
堀内誠一       画

こすずめのぼうけん (こどものとも傑作集) | 絵本, 本, エインズワース

4月も半ばを過ぎ、桜の花は散り新芽が勢いよく伸びています。3月には「ホーホケッケッ」と、ちょっと下手くそだったウグイスの鳴き声も「ホーホケキョ♪」って、上手になってきました。今頃は、街中に住む すずめも、子育て真っ最中ではないのかな?

今頃、日によっては、少し汗ばむ季節になると、車の運転中、バタバタと安定しない飛び方のすずめにぶつかりそうになったことがあります。また、ワンコの散歩中に電線から電線にフラフラと飛んでいくこすずめを見かけたことも何度か…そんな時、私はこの「こすずめのぼうけん」という絵本を思い出します。

きづたのつるの中にできた 巣の中に住んでいるすずめの親子。このこすずめにやわらかい茶色の羽が生え、翼をパタパタさせることができるようになると、お母さんすずめが飛び方を教え始めます。

お母さんに教えてもらった通りにして羽を動かすと、本当に空中に浮かんで飛ぶことができたこすずめは、お母さんに言われた生け垣の上までという約束を忘れて、生け垣を通り越して、広い世界へ飛んでいきます。
「ぼく、これなら、あの いしがきの てっぺんより、もっと とおくへとんでいける」
「はたけをこえて、そのさきの いけがきを こえて、そのさきのかわをこえていける。ぼく ひとりで、せかいじゅうをみてこられる」って。できなかった事ができた時、ここからはもうなんでもかんでも、できる気になっちゃいますよね。でもやっぱりまだ小さな子どもでした。
最初は楽しかったけど、羽が痛くなってしまった こすずめは休みたくなり、飛びながらみつけた からす、やまばと、ふくろう、かも、の巣を訪ねますが、鳴き声が違うので仲間じゃないねぇ、中へ入れることはできないねぇと、言われてしまいます。

みんな自分の仲間か尋ねるときに
「おまえ、かあ、かあ、かあ、って、いえるかね?」
「おまえさん、くう、くう、くうっていえますか?」
「おまえ、ほうほう、ほうほうっていえるかね?」
「おまえさん、くわっ、くわっ、くわっていえる?」鳴き声で確かめるのですが、残念な事に、こすずめは ちゅんちゅんちゅん しか言えないので、中に入れてもらえないのです。
堀内誠一さんのやわらかいタッチの優しい絵の中に、自然界の掟みたいなものがやんわりと描かれていて、お話を読み進めていくと、読んでいる私の腕まで痛くなってきそうな緊張感が伝わって、最後にお母さんに会えた時には、本当によかったなぁと、安心します。
眠る前の読み聞かせは、特にそんなお話ってなんだかとってもいい気がします。安心して眠れそうな気がしませんか?

ブログを書いていたら、私も亡くなった母の温かさを思い出して会いたくなりました。
字数が多めなので、小学校の読み聞かせでは、1、2年生くらいだと、聞いてくれるかなと最初は心配になってしまうかもしれませんが、繰り返しの文体も多く、わかりやすいストーリーなので、私も今度チャレンジしてみようかと、久々に本棚から出してきて思いました。

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